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『静寂への誘い』


砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)

  • 作者: 安部 公房
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/03
  • メディア: 文庫



京都が好きだ。
京都のお寺で過ごす、これは関西ならではの贅沢であるように思う。
奈良でも鎌倉でもない、まして東京では決して得られないたおやかな時間がそこには有る。


日常生活に疲れて、自分が何者か分からなくなったとき、よく行く所がある。
東福寺・開山堂。
東福寺といえば紅葉シーズンの通天橋が有名だが、できればシーズンオフの人の少ない時期がいい。
通天橋を渡って、続く斜面を登りきったところにそれはある。
コの字型に配置された建物と山で切り取られた空間には、下界とは違う時間が流れている。
満たされる。
そこには何も無いけれど、すべてがある。
白砂利と、敷石と、小さな池と、山の静謐しかないけれど、すべてを包む優しい時間が流れている。
ぴいんと張り詰めた、だけど肌に心地よい空気は、ここが『晴れ』の空間であることを教えてくれる。

僕は考える。
満たされた空間の中で考える。
自分に何が必要かと。
幸せになる為に、何が必要かと。
下界ではブランド品や高級車や高級腕時計などが幅を利かせている。
だけどここではそんなもの達は何の意味もなさない。
『人が本当に幸せになるには多くのものは必要ないのだ』
この空間は『足るを知る』ことを教えてくれる。
とりあえず、僕には『素敵な恋人』以外に必要なものは思いつかなかった。


東福寺は山の中腹にあるから元々静寂に包まれているけど、
街の喧騒の中にも静寂に支配された異空間はある。
東寺(もしくは教王護国寺という)。
京都駅から徒歩圏内にあるこのお寺は、真言宗のお寺である。
『即身成仏』をとく真言宗らしく、このお寺では境内もにぎやかだ。
(ここのところは禅宗の東福寺とは対照的だ。)
東寺には庭園があり、大きな池があり、季節の花々があるから、
庭園を散策して時を過ごすのもいい。
五重塔を始め歴史ある荘重な建物にしばし現を忘れるもよし。
だができれば金堂や講堂に足を向けてほしい。

中は薄暗く、入った瞬間空気が違うことに気付く。
中の空気は、ここが世俗と切り離された空間であることを教えてくれる。
自然と背筋が伸びる。

講堂に配されているのは、大日如来を中心にした立体曼荼羅である。
中央に如来群、右に菩薩群、左に明王群、東西に梵天・帝釈天、四隅に四天王。
二十一体の仏像が整然と並ぶさまは、圧巻である。
凛とした空気に、しばし時を忘れる。

金堂には薬師如来像を中心に日光・月光両菩薩が脇侍として配置されている。
薬師如来像の前に腰掛け、巨大な如来像を見上げる。
ここでは流れる空気が講堂のそれよりほんの少しやわらかい。
薬師如来の穏やかな表情のせいであろうか。
右手の『施無畏』印は「あなたは今苦しんでいるけど、大丈夫だよ」という意味であり、
左手の『与願』印は「あなたにこれをあげましょう」という意味である。
そういう事を知ることも大切だが、ここでは如来の穏やかな表情がすべてを包括している。
穏やかなその表情を見ているだけで、苦しみも悲しみも辛さも融けて気持ちが少し楽になる。

恐る恐る如来様に話しかけてみる。
心の中で。
そっと。
「仏様、仏様、お腹のお肉が少し弛んでるようですが、
座ってばかりいないで少し運動なさってはいかがでしょう。」
すると仏様は、『ほっとけ!』とおっしゃいました。
(いや~、仏だけに。)

・・・お後がよろしいようで。




今週の一曲
QUEEN 『My Melancholy Blues』


世界に捧ぐ(紙ジャケット仕様)

世界に捧ぐ(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2013/10/30
  • メディア: CD



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